【症例016】10年間続く胸の激痛
- 丸山稔一

- 6月22日
- 読了時間: 3分

― 治療家として学んだ“限界と役割”
先日、10年以上にわたり強い痛みに苦しんでいる女性が来院されました。
来院時、患者様は右胸の下を押さえながら、眉間に深いしわを寄せて入室されました。付き添いのご主人もご一緒です。
初回の問診では、これまで受診された病院、鍼灸院、整体院、漢方薬局、心療内科などの経過を詳細にまとめた資料を持参してくださいました。
「何とか原因を知りたい」
「なぜ痛み続けるのか知りたい」
そんな切実な思いが伝わってきました。
症状の特徴
患者様のお話では、痛みの中心は右胸郭の下部です。
その痛みは単なる局所の痛みではなく、
* 首から胸にかけての引きつれ
* 呼吸時の違和感
* 顎周囲の緊張
* 全身の不快感
など、多くの症状を伴っていました。
各種検査では大きな異常は見つかっておらず、長年にわたり原因がはっきりしない状態が続いていました。
初回の評価
オステオパシーでは痛い場所だけを見ることはしません。
全身のつながりを評価しながら、身体全体のバランスを確認していきます。
検査の結果、
* 呼吸運動の左右差
* 頭蓋の微細な動きの低下
* 横隔膜周囲の緊張
* 一部の内臓組織の可動性低下
などが確認されました。
しかし同時に感じたのは、
「構造的な問題だけでは説明しきれない」
ということでした。
治療と経過
数回にわたり、
* 頭蓋へのアプローチ
* 横隔膜周囲の調整
* 内臓・胸郭への穏やかな施術
* 自律神経系の調整
を中心に行いました。
施術後には、
* 呼吸がしやすくなる
* 姿勢が整う
* 表情が和らぐ
といった変化は見られました。
しかし、患者様が長年苦しんでこられた激しい痛みそのものを十分に改善することはできませんでした。
この症例から学んだこと
治療を続ける中で強く感じたのは、
「身体の構造だけを追いかけても届かない領域がある」
ということです。
長期間続く慢性痛では、
身体だけでなく、
* 神経系
* 感情
* 心理的ストレス
* 過去の痛みの記憶
などが複雑に関係している場合があります。
オステオパシーではしばしば、
Body(身体)
Mind(心)
Spirit(生命力・存在そのもの)
という三つの側面が語られます。
今回の症例は、まさにそのことを改めて考えさせられる経験でした。
治療家としての判断
最終的に私は患者様へ、
心理的側面から慢性痛を専門的に扱う治療も選択肢の一つであることをお伝えしました。
もちろん、必要であればいつでも施術を受けていただけることもお伝えしています。
患者様にとって最善の道を考えること。
それは時に、
「自分の治療だけにこだわらない」
という判断でもあります。
おわりに
この症例は、私にとって決して成功例ではありません。
患者様の苦しみを十分に改善できなかったという事実があります。
しかし同時に、
治療家としての役割とは何か。
どこまでが自分にできることで、どこからが他の専門家の力を借りるべきなのか。
その大切さを改めて教えていただいた症例でもありました。
臨床では時に、自分の限界と向き合わなければならない場面があります。
それでも患者様の回復を第一に考え続けること。
その姿勢だけは忘れずにいたいと思います。
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